本番まで1年を切っている中、東京オリンピックのマラソンと競歩の会場を札幌市へ移す案が急浮上。2019年11月1日、東京都の小池百合子都知事やIOC関係者らによる4者会議が行われ、会議終了後、小池都知事は札幌市での開催が決まったことを表明しました。「IOCの決定に同意することはできないが、最終決定権限を有するIOCが下した決定を妨げることはしないという東京都としての決断を行った。あえて申し上げるならば、合意なき決定だ」という小池都知事の言葉が話題となりました。
開催までの期間が短いにもかかわらず、なぜこのようなことが起きてしまったのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
事の発端は、2019年9月から10月にかけて行われた世界陸上ドーハ大会。大会の初日行われた女子マラソンは、猛暑を考慮されて23時59分という異例の時間にスタートしたものの、気温32.7度、湿度は73.3%というとても厳しい環境の中、行われました。その結果、出場した68名中、28名が棄権するという事態に発展してしまったのです。男子50km競歩も似たような気象条件の元、実施。47名がスタートしたものの、完歩することができたのは、失格者を含めて28名となりました。
これを受け、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は10月16日、東京オリンピックのマラソンと競歩を札幌市で開催する案を発表。さらに翌17日には、国際オリンピック委員会と大会組織委員会の二者間で合意していることが明らかになりました。
これに対し、開催地である東京都の小池都知事は、「かなり唐突な話」と大反対。この計画自体を知ったのが16日と蚊帳の外に置かれていたこともあり、「涼しいところというなら、北方領土でやったらどうか」と、八つ当たりのような発言も飛び出しました。
結末がどうなるのか、陸上競技の関係者のみならず、日本国内が注目していましたが、11月1日、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織委員会、政府の4者協議が1日、都内で実施。会場変更の権限はIOCにあることなどを理由に、東京都が札幌移転をやむなく了承する形で札幌市での開催が決定となりました。
マラソンや競歩と同じく、選手への負担が大きい競技として知られるトライアスロンですが、11月1日、大会組織委員会の森喜朗会長が馬術とともに暑さ対策としてスタート時間を早めることを検討していることを発表しました。現在、トライアスロンのスタート時刻は、男女個人戦が午前7時半、混合リレーは午前8時30分となっていますが、それぞれ1時間ほど繰り上げる予定。国際競技連盟(IF)などとも協議しながら、12月のIOC理事会での承認を目指しています。
一方、オリンピックの後に開催されるパラリンピックについてですが、こちらは当初の予定通り、マラソンと競歩も東京で行われることが確認されています。10月31日、国際パラリンピック委員会のパーソンズ会長は、「東京からマラソンを動かすという見込みはない。わたしどもはそのような計画はもっていない」と話したそうです。
真っ先に考えられるのが、選手のコンディション調整です。選手たちは、東京で行われることを想定し、コースや気候などを考えながらトレーニングを積んでいるのですが、それが札幌に変わってしまうと、また1から計画を練り直さなければなりません。
それ以外では、五輪に出場する日本代表選手を選ぶ、メンバー選考です。リオオリンピックまでのマラソン代表は、過去に行われたいくつかの大会の順位やタイムなどを元に日本陸上競技連盟が選考を行ってきました。しかし、この方法による選考結果が不透明だと以前から評判がよくなかったため、今回の東京オリンピックからは、日本代表を一発選考するマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)を開催し、決定することに。コースは、東京オリンピックの本番を想定して、ほぼ同じ時期、同じレースで行われました。札幌開催がもっと早く決まっていれば、マラソングランドチャンピオンシップも札幌で行われ、出場選手が違っていたということも考えられます。
東京五輪の観戦チケットは、どの競技も簡単には手に入れることができないプラチナチケットばかり。マラソンも例外ではありません。当選した人は当日、きちんと観戦できるよう宿泊施設の予約も済ませているはずです。ところが今回の開催地移転によって、11月3日の報道によると、有料観客席を設けず、沿道のみの無料観戦とする案が本格的に検討されるようだということになっているようです。スタート・ゴールの場所として有力視されている大通公園周辺で仮設観客席の設置スペースの確保が困難であることや、設備面で費用がかさむことが理由とのことです。
いかがだったでしょうか?現時点(11月4日)では、まだまだ不透明な部分がたくさんあります。選手はもちろん、関係者や沿道で応援する市民らに負担がかからないよう迅速な対応をしてもらいたいものです。